SPECIAL TALK @tableが考える食の未来

⽣産者と⽣活者をつなぐ場創り 2

2023.01.12

今こそ小売主導で新たなスキームを創る時(後編)

少子高齢化・人口減少、不況、価格競争が続く日本。食を取り巻く環境は、生産者と小売業者、どちらも恵まれているとは言いがたい現状です。高品質なものをつくり出す、高精度の技術を持ちながら、事業の先行きが見通しにくい状況にあるのではないでしょうか。
アットテーブルは食のマーケティング支援会社として、このような時代の中で生産者と小売業者のあるべき関係について、先駆的な取り組みをしている方や識者を招いて学び、課題やそれを解決する方向性についてともに考えていきます。

福島 徹(ふくしま・とおる)

株式会社 福島屋 代表取締役会長

1951年東京都生まれ。家業のよろず屋を継ぎ、酒屋、コンビニを経て、34歳のときに現在のスーパーマーケットの業態へ転換。安売りをしない、チラシを配らないという独自のスタイルを貫き、自ら産地へ赴き、生産者から直接米や野菜を仕入れ、つくり手とのコラボレーションによる福島屋オリジナル商品を多く開発。“食のセレクトマーケット”として多くのファンに愛される店づくりを行っている。

上田 健司(うえだ・けんじ)

株式会社 アットテーブル 代表取締役社長

1993年DNP入社、商業印刷の営業に従事。新規得意先開拓を得意とし、食品小売および食品メーカー、CVSなど独自の戦略で数多く開拓。2004年にDNPの社内起業制度にて株式会社アットテーブルを一人で創業。独自の食卓分析やトレンド情報分析とクライアントPOS分析等を比較融合した独自のMD計画作成支援を発案。日本全国の大手食品小売や食品メーカー、宅配関係.および各種商業施設の戦略コンサルティングやMD支援を手掛ける。2014年よりMDを核にしたブランディング支援として、戦略立案から計画立案および一貫したプロモーション提案を行う「ブランディングMD」を推進。2015年度より食に関わる社会課題の解決に取り組み、勉強会やセミナー、それらのFSの場として市谷に@MARCHEを出店、現在に至る。

日本スーパーマーケット協会 次世代販促セミナー、同協会アニュアルセミナー、ダイヤモンドセミナー、コーネルJAPAN、リテールテックJAPANなど講演多数。

心がけたい小さなチャレンジの積み重ね 起こった変化が次につながる

羽村市を拠点とし、都内に店舗を展開する福島屋の福島徹会長をお招きしての対談、その後半をお送りします。
福島会長は、自ら全国の産地を訪ね、その目利きにかなった食材を仕入れ・加工して販売してきました。そして、その食材・商品がなぜおいしいのか、どうしたらおいしく食べられるかを消費者に伝え続けています。いわば生産者と消費者をつなぐ食の世界の翻訳者であり、アットテーブルが考える理想の小売業を展開されている方です。
その福島会長に、日本の食の現状と課題、そして課題解決に向けて小売業が果たせる役割は何かをうかがいます。

上田 弊社のクライアントは大手の小売り業者ですが、今後は、小規模でも福島屋さんのような生産者と消費者をつなぐ翻訳者というか、感性やその表現を大切にする小売業者も増えて、二極化していくような気がします。ただ、大手は危機感をもってはいても、なかなか今の業態を変えられない。それも小売業界の課題だと思うのですが、いかがでしょう。

福島 規模が大きいと柔軟に方向転換するのは難しいでしょうね。

上田 しかし、市場が縮小して、競合が増えていくなかで、売り場を縮小するとか、店舗数を減らしていくような戦略もあると思うのですが。

福島 大手の事情はよく知りませんが、選択肢としてありでしょうね。冒頭に、今の食をめぐる状況は複雑だと言いましたが、僕は複雑なことほどシンプルに考えるほうがいいと思っています。

上田 先ほど、感覚、感性が大切と言われましたが、情緒的なところへシンプルに訴えていくのがいいということでしょうか。

福島 シンプルに、そして純粋に。

上田 純粋に?

福島 この商品をなぜ売るのか、お客様の暮らしに何を提供したいのか、そこから何を感じ取ってほしいのか。数字は少し横において、そういうことを真摯に考えてみる。これは、人がなぜ生きるのかを考えるのと同じで、とても純粋で大切なことです。そしてフレキシブルに、小さなことでもいいから、さまざまな試行を積み重ねていくのがいいでしょうね。

上田 私も、小さな試行錯誤の積み重ねは大事だと思います。

福島 つい最近、店でマイクパフォーマンスを始めたんですよ。なぜかというと、商品についてはPOPなどで伝えていますが、それで伝えきれないのは何だろうと。それは僕らの動作、動きなんです。そこで、最初は僕がマイクを持ってちょっとやってみました。「今、天ぷらを揚げているところです」と。すると、お客様が天ぷらを陳列する前から、カートを押して寄ってくるんです。コミュニケーションとしては一方通行なのですが、お客様の歩調に合うというような感触があるんです。

上田 おもしろいですね。

福島 マイクを持つスタッフも、それで商品が売れるとうれしいから、工夫するようになります。ごくふつうの調理説明しかしていなかったのが「このロールケーキは午前中に、店の前の菓子工場で巻いたものです」と、今までにないことを言い出す。アナウンスのネタを自分であれこれ探すようになったんです。それを傍で見ていると、スタッフとお客さんが一緒になって楽しく踊っているような印象があって、ああ、こういう姿はいいなと。これを、もっと双方向的なコミュニケーションに発展させていきたいと考えているところです。

生産者、メーカー、小売業者のこれから 必要になるのは互いの感性を磨き合うこと

上田 改めてうかがいますが、食と小売業の混沌とした現状を解くキーは何でしょう。

福島 先にも述べましたが、自分たちが何をしたいのかを鮮明にすることです。我々はそう務めてきましたが、今まで以上にそれを鮮明に打ち出す必要があると思っています。今のように先行き不透明な社会では、そこが少しでもぼやけるとすぐに埋もれてしまう。ですから、うちは従来の小売りスタイルの大改造をしようと今、準備を進めているところです。そしてもうひとつ大切なのは、お客様を軸とした視点です。業態も商品も多様でいいとはいうけれど、いざ取り組むと視点がマーケティングやMDといったお金を軸にしたところに向きがちです。業者側はそれで納得できるかもしれませんが、お客様にとってそれはどうでもいいことです。そのことに早く気づかなければいけません。

上田 同感です。一方で、これは生産者側の話なのですが、私の知り合いに農業の六次産業化で注目されている農家がいます。商品もいいし、評判もいい。ところが、あまり儲かっていないんです。彼に限らず、そのような現状があると思うのですが、どう思われますか?

福島 六次産業化は、大きな初期投資を要するので経営が難しい。けれど、僕の知り合いにはモデルになるような方が4、5人いますよ。彼らは上手にやりくりして利益を出しています。そういう人たちの話を聞いてみるのはどうでしょう。解決の糸口が見つかるかもしれません。あるいは、生産、加工、販売それぞれの領域の方が集まって、勉強会のようなものを開くのもいいかもしれせん。

上田 異業種で組織体も異なる人たちが、連携の可能性を探し出していくようなイメージですか。協働・協創の場をつくり出すような。

福島 生産、加工、販売の事業一体化は、流通の理想的なかたちではあるでしょうが、一般には人も組織も違うからコンセンサスをとりにくい。しかし、誰かがイニシアチブをとってやっていかなければならないことだと思います。

上田 そのイニシアチブをとるのは、生産者やメーカーをはじめ、流通で一番多くの接点を持つ小売業者だと私は思います。ですから、そこで何らかのお手伝いができるなら、していきたいという意欲はあります。

福島 そのような場でも、感性を磨くことが大切なので、技術やノウハウの議論ではなく、互いの考え方を共有していくような方向になるといいなと思います。みんなで協力して、一緒に船を漕ぐという姿勢が、これからは必要です。

上田 最後に、弊社は大手企業の社内起業制度で生まれました。立ち上げ当初は拡大志向だったのですが、社会の変化にともなって、小さなニーズに丁寧に応えていくビジネスのほうが、今後は重要になると考えるようになりました。そこでスモールビジネスの社内起業を支援する取り組みを始めたのですが、何かアドバイスがありましたらお願いします。

福島 人脈が多彩で、いろいろな経験してきている上田さんだから、僕が心配することは何もないですよ。ただ、自分のやりたいことをしようとすれば、必ずリスクを背負います。起業すれば、思い通りにならなくて冷や汗をかくことも多いと思うけれど、冷や汗をかく分だけ感性も人格も磨かれていきます。お金よりも生き方を大切にする人が一人でも増えてくれたら僕もうれしいから、スモールビジネスの起業支援、自信をもって取り組んでほしいですね。一緒にできることがあればやりましょう。

上田 本日はありがとうございました。


今こそ小売主導で新たなスキームを創る時(前編)

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